本稿は『【地図で地政学】リッター300円超⁉ AIの考えるホルムズ海峡閉鎖 365日後の世界』(https://youtu.be/H7_hcIgb67w)から引用させていただきました。
イランは今、アメリカに対して徹底抗戦の構えを見せています。そして世界のエネルギーの動脈とも言えるホルムズ海峡は事実上閉鎖されました。この海峡を通るタンカーは激減し、日本ではすでにガソリン価格が上がり始めています。
しかし本当に怖いのはガソリン代の値上がりだけではありません。もしこの状態が続けば日本の社会そのものが静かに揺らぎ始めます。影響は物流、農業、電気代などの価格へと広がっていきます。その全てが連鎖しながら社会を大きく動かしていくのです。
では、もしホルムズ海峡が止まったままだったら世界はどうなるのでしょうか。日本は他の国から石油を輸入できるのでしょうか。今回は日本がいかにエネルギーにおいて脆弱性を地図で読み解き、戦争が1年以上続いた場合、何が日本に起こるのかAIでシミュレーションしていきます。
現在中東で戦火が拡大しています。アメリカ、イスラエル、イランの軍事衝突は収まる気配を見せず、UAEやサウジアラビアといった周辺国も巻き込む大混乱へと発展しています。イランのペゼシキアン大統領は湾岸地域への攻撃停止を示唆しました。しかしその後もバーレーンやUAEで爆発の報告が相次いでいます。しかしなぜ大統領の発言と実際のイランの行動が矛盾しているのでしょうか。この矛盾はイランの政治構造そのものを映し出しています。イランでは大統領の上に宗教指導者と革命防衛隊という2つの強大な権力が存在します。政府が周辺国との緊張緩和を望んでも軍事組織が独自に動くその構造的な危うさがこの混乱の背景にあるのです。
そして今日本の生命線とも言えるホルムズ海峡で現実の異変が起きています。報道によれば2月28日のアメリカ・イスラエルによるイランへの攻撃後、3月2日にイランの革命防衛隊幹部がホルムズ海峡を通る船に火をつけると発言し、実際にタンカーがドローン攻撃を受けて炎上しました。この影響を受け通常1日130隻以上が行き交っていたこの海峡を通過する船は攻撃からわずか3日でほぼ0に激減し、事実上封鎖が止まりました。ホルムズ海峡は世界の石油輸送の約20%が通過する海の動脈です。1日あたり約2000万バレル、世界全体の石油消費量のおよそ1/5がここを流れています。そして日本の原油輸入の約95%が中東に依存しており、そのうち約8割から9割がこの海峡を経由しています。
アメリカの攻撃後、日本の株式市場はすでに反応し、日経平均株価は連日大きく下落しました。エネルギー価格の上昇と円安の進行が輸入コストへの影響として警戒され、すでにガソリンスタンドでは値上げが相次いでいます。そしてこの影響は隣国中国にも波及しています。イランが輸出する原油の約8割から9割が中国へ流れており、中国はイランにとってほぼ唯一の顧客です。逆に中国にとっても輸入原油の約13%をイラン産が占めています。米国の制裁をすり抜けながら築かれたこの密切な関係だからこそ中国はホルムズ海峡の安全確保をイランと直接交渉しているのです。アメリカに対し軍事行動の即時停止を求めると言いながらイランの体制を経済的に支え、アメリカ抜きで独自ルートを確保しようとする。その行動は事実上アメリカ主導の秩序への静かな対抗と見て取れるのです。
このようにホルムズ海峡は今や世界の大国が交渉テーブルに乗せる地政学的な切り札となっています。
そしてさらに情勢を複雑に最悪のシナリオへと導いているのがイランの権力交代です。最高指導者ハメネイ師の死去を受け、3月9日にはモジタバ氏が第3代最高指導者に選出されたことが伝えられました。報道によるとモジタバ氏は革命防衛隊と深い関係を持つ強硬派で、若い頃には革命防衛隊の活動に関わり1980年代のイラン・イラク戦争にも関与したとする見方があります。その後は進学の道に進みながらも革命防衛隊との緊密な関係を維持し続けました。2009年のイラン大統領選後、選挙不正への抗議として起きた民主化運動、緑の運動では政府の公式発表だけでも36人が犠牲となり、4000人以上が拘束されました。モジタバ氏はこの弾圧の背後で重要な役割を果たしたと指摘されています。そしてモジタバ氏は公職についたことすらない人物でありながらトランプ第1次政権の2019年米財務省が制裁対象に指定しています。理由は中東の不安定化と国内弾圧への関与です。それほどまでに危険視されていた人物が今やイランの最高権力者となったということです。
そして今回の権力交代はもう1つ大きな意味を持っています。イラン革命以来この国は世襲政治を否定してきました。1979年イランでは王政が倒され革命によって現在のイスラム体制が誕生しました。しかし今回強硬派として知られたハメネイ氏の息子が最高指導者となりました。つまりイランでは今王政を倒して生まれたはずの革命国家で世襲に近い権力移行が起きているのです。こうした体制の変化もあり、この戦争は短期では終わらず長期化するという見方が現実味を帯びてきています。
ではもしこの戦争が長期化しホルムズ海峡も長期にわたり事実上封鎖され続ける事態になれば日本はどうなるのでしょうか。日本の備蓄はどれほど持ちこたえられるのでしょうか。経済産業省によれば国家、民間、産油国共同備蓄を合わせて最新のデータで約254日分あるとされています。しかしこれはあくまでも平時の消費量で計算された数字です。実際の危機では社会はもっと早くもっと激しく変化します。実際にアメリカの攻撃から2週間足らずでガソリンは値上げが続き、経産省が国内の石油備蓄基地に放出への準備を指示したことも報道されています。そして254日持つというのは何も変わらなければの話に過ぎません。それは思っているよりも早く進行する可能性はゼロではないのです。
今回の動画では現在集められるデータをもとにホルムズ海峡封鎖が続いた254日後、日本はどうなるのか、どのような最悪のケースが想定されるのか、地図とAIを使いシミュレーションしていきます。このチャンネルは地図とAIで世界の構造を読み解き、歴史、地政学、未来予測を脳に残る形で伝える新しい共有メディアです。もし気に入っていただけましたらチャンネル登録と高評価で応援いただけると励みになります。
まず日本のエネルギー構造を見てみましょう。日本は資源の少ない国です。石炭や天然ガスも輸入に頼っていますが、中でも石油はほぼ全てを海外からの輸入に依存しています。新潟や北海道に小さな油田は存在しますが、国内で算出できる石油は消費量のわずか0.3%程度です。事実上全てを輸入に頼っています。一次エネルギー全体に占める石油の割合は約36%。自動車、飛行機、工場、プラスチックから農薬まで私たちの社会は石油なしでは動きません。そしてそのほとんどが海の向こうから運ばれてきています。
そして日本の石油の輸入先を見ると特徴的な構造が見えてきます。2025年の実績では主な輸入国のシェアは次の通りです。アラブ首長国連邦が約43%、サウジアラビアが約40%、クウェートが約6%とこの3カ国だけで輸入量の9割近くを占めています。そして中東全体では約95%もこの地域に依存しています。これは米国の中東依存度がおよそ9%、ヨーロッパがおよそ16%であることと比べても極めて高い水準です。東アジアの隣国を見ても韓国は約73%、中国は約40から50%前後です。つまり日本だけが約95%と飛び抜けて中東に依存するエネルギー構造を持っているのです。
ここで地図を見てみましょう。中東で積み込まれた石油タンカーは次のルートを通ります。中東の産油地帯を出発し、ホルムズ海峡を抜けインド洋を横断しマラッカ海峡を通過。その後南シナ海を北上し、片道およそ20日かけて日本へ到着します。つまり日本のエネルギーはこの1本の細い海の道で繋がっているのです。そしてこのルートには2つの重要な海峡があります。1つはホルムズ海峡、もう1つはマラッカ海峡です。世界の海上輸送ではこうした海峡をチョークポイントと呼びます。これが海上交通のボトルネックで1箇所が詰まれば全体の流れが止まります。マラッカ海峡は1日あたり約250隻を超える船舶が通過する世界で最も混雑した航路の1つです。ホルムズ海峡は1日あたり約100隻程度とマラッカ海峡よりは少ない航路ですがマラッカとは別の意味で特別な海峡です。2024年にホルムズ海峡を通過した原油は1日あたり約2000万バレル、世界の石油消費量の約20%にあたります。これはマラッカ海峡の1日約1600万バレルと比べても世界最大級の石油のチョークポイントです。そして日本に届く原油の約8割がこの海峡を経由しています。もしこのチョークポイントが止まれば日本への石油エネルギーの流れも止まります。さらに近年中国は南シナ海からマラッカ海峡周辺への影響力を拡大しており、その際にはこの航路の安全が大きく揺らぐ可能性も指摘されています。そうなれば日本は一夜にしてエネルギーの大動脈を断たれることになるのです。
ではもしこの海峡が封鎖されたら何が起きるのでしょうか。まずホルムズ海峡の地形を見てみます。この海峡は最も狭い場所で約40kmほどしかありません。しかもタンカーが安全に航行できるルートはさらに限られています。南北に分かれた2本の航路それぞれ幅わずか3kmほどです。この狭い水路に毎日数十隻のタンカーが通過しています。つまりここは地理的に見ると簡単に封鎖されやすい海峡でもあります。海峡の北側はイランの領土、南側はオマンとUAEです。そしてイランはこの海峡に面した沿岸に多数のミサイル基地と海軍施設を持っています。アメリカ、イスラエルとの戦闘が激化すればイランが取る可能性のある手段はいくつかあります。それはホルムズ海峡への機雷設置、対艦ミサイルやドローンによるタンカーへの攻撃、小型高速ボートによる奇襲攻撃、さらに航行妨害による心理的圧力などです。もしこうした攻撃が続けばタンカーは安全にホルムズ海峡を通れなくなります。実際過去にもこうした事態は起きています。1980年代のイラン・イラク戦争ではタンカーへの攻撃が相次ぎタンカー戦争と呼ばれました。2019年にはホルムズ海峡近くのオマーン湾でタンカーが攻撃され、そのうち一隻は日本の海運会社が運行する船でした。日本と直接関係のある船が攻撃されたことでこの海域の危険性が世界に強く印象付けられることになりました。
もしタンカーへの攻撃が続けば石油輸送は大きく混乱し、世界の石油市場はすぐに反応します。まず起きるのはタンカーの運行停止です。船会社は安全が確認できなければタンカーを海峡に向かわせません。これは経済的な判断ではなく船員の安全の問題です。そして戦争保険が急騰します。過去の中東危機ではタンカー保険が10倍以上に跳ね上がった例もあります。保険料が上がれば当然輸送コストも急上昇します。結果として原油価格も大きく動きます。平時の原油価格はおよそ1バレル70ドル前後です。日本のガソリン価格に換算すると1L160円前後が1つの目安となります。しかし中東が緊張すると原油価格は一気に跳ね上がり140ドルを超える可能性も指摘されています。そして直近の推算では原油が100ドルになるだけでガソリンは1L230円を超える可能性があるとも言われています。実際すでに原油価格は100ドルを超えており、一部のガソリンスタンドでは価格が200円に迫るあるいは200円を超える事例も出始めています。これが140ドルという水準になれば300円を超える可能性も現実としてあり得るでしょう。これは決して現実離れした数字ではないのです。つまり問題は石油が来るかどうかだけではありません。いくらで来るのかということもリスクとなります。そしてホルムズ海峡への影響はすでに私たちの生活に直接波及し始めているのです。
ここで日本の石油備蓄について見てみましょう。経済産業省によれば日本の石油備蓄は3つあります。国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄。これらを合わせて約254日分とされています。国家備蓄は政府が管理するタンクに貯蔵されて、主に北海道や九州など全国10か所以上に分散して保管されています。民間備蓄は石油会社や電力会社が義務として保有するものです。産油国共同備蓄とは日本の石油でなくサウジアラビアやUAEなど産油国の石油会社が日本国内のタンクに保管している原油です。これは緊急時に日本へ優先的に供給される契約になっています。このように数字だけ見ると約254日分とかなり余裕があるように感じます。しかしここには1つ重要な前提があります。それは平時の消費量で計算されているという点です。もし供給が止まれば政府はすぐに燃料の配分制限を行います。過去の石油危機でも日本政府は石油の使用制限を実施した歴史があります。1973年のオイルショックでは省エネが国民に求められ深夜のネオンサインが消えました。今回も同じことが起きる可能性があります。つまりここで問題になるのは誰が優先して石油を使うのかということです。石油が不足すれば政府は燃料の配分を管理する可能性があります。そして一般的に石油の供給が優先される順位は次のようになります。まず自衛隊、そして警察や消防などの治安機関、次に医療機関、その後食料を運ぶ物流、そして発電などのエネルギーインフラ、そして最後が一般の車両です。つまり私たちの車はかなり早い段階で制限される可能性があるということです。ガソリンスタンドでは1回の給油量に上限が設けられるかもしれません。あるいは販売そのものが制限されることも考えられます。
そしてもう1つ重要な点があります。石油は単なる燃料ではありません。プラスチック、合成繊維、医薬品の原料にもなります。社会のあらゆる場面に石油は入り込んでおり、物流、発電、工業、農業を支える生活インフラに組み込まれています。実際日本の農家ではトラクターやビニールハウスに使う燃料がかつての1.5倍近い水準で高止まりしています。肥料代も品目によっては倍近くに跳ね上がり、働いても赤字という農家が続出しています。2025年の農業倒産件数は2000年以降で過去最多を記録しました。そしてこの状態に燃料高が重なれば農家の平均年齢がすでに67歳であることを考えると国産の米や野菜が食べられなくなる日も決して遠い話ではありません。まさに日本の経済活動の多くは石油なしでは動かないのです。このように中東の石油問題はエネルギー問題だけでなく社会システム全体の問題となります。そしてその影響は時間と共に社会全体へ広がっていくのです。
ここからはこれまで見てきた構造をもとにホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合の日本社会で起きる変化をAIによる最悪のケースとしてシミュレーションします。封鎖のニュースが流れた翌朝から原油市場は急騰と同時に動き始めます。最初に変わるのはガソリンスタンドの価格表示です。レギュラー200円、250円と値上げが続き、すぐに給油ドライバーが増え始めます。そして同時に円安が進みます。理由は単純です。原油はドルで取引されているからです。エネルギー価格が上がれば日本企業はより多くのドルを用意して原油を買う必要があります。これはつまり円を売ってドルを買う動きが強まり、為替市場では円が売られることで円安が進むのです。このようにエネルギーをほぼ全輸入に頼る日本では原油価格高騰と円安が重なると輸入コストが二重に膨らみます。貿易赤字は拡大し、株式市場では航空、輸送、製造業に売りが集まります。まだこの段階では日常生活への影響は限定的でスーパーの棚は埋まっており電車も普段通りに動いています。
しかしホルムズ海峡閉鎖から1ヶ月が過ぎると物流の現場が変わり始めます。トラックや小型などの物流会社は燃料費の急騰で採算が取れなくなり配送便数を絞り始めます。日本の国内貨物輸送の約9割はトラック輸送で燃料は軽油が主で原油から作られています。原油が上がり燃料である軽油価格が上がれば配送費も上がります。そしてそのコストは私たちが買う商品の価格に転嫁されていきます。食品、日用品、日用雑貨などスーパーやコンビニに並ぶあらゆる商品の値札が物流費高騰で静かに書き換えられていきます。そしてこれは円安の打撃を受ける輸入品だけの問題ではありません。国内で作られた野菜も米も届けるためのコストが上がれば配送費は自動的に価格に反映されていきます。航空運賃も同様で海外出張や旅行では燃料サーチャージが跳ね上がり移動コストは急激に上昇していきます。そしてこの段階になると人々は少しずつ生活の変化を実感し始めます。
3ヶ月が過ぎると影響は産業の根幹に届きます。電気料金は2割ほど増加し、1万円だった電気代は1万2000円となり家計を圧迫します。日本の電力の多くは石油や液化天然ガスによる火力発電が支えており、エネルギー価格が上がれば電気料金にも直結します。製造業ではエネルギーコストの増加に耐えられない工場から稼働を落とし始めます。鉄鋼、化学、セメントなど大量のエネルギーを必要とする産業ほど打撃は大きくなります。打撃の大きい企業では残業が消え、ボーナスが消え、工場の明かりが少しずつ減っていきます。わずか3ヶ月のホルムズ海峡閉鎖で日本経済全体が重いブレーキを踏まれたような状態になるのです。
そして半年が過ぎる頃、政府は燃料の管理に乗り出します。ガソリンの販売に上限が設けられ、業種ごとの配分が議論されます。どの産業にどれだけ燃料を回すのか平時には存在しなかった問題が官僚の机の上に並ぶのです。さらに都市部のスーパーやコンビニでは特定の棚に空白が目立ち始めます。最初に品薄になるのは食用油とトイレットペーパーです。理由は単純です。保存が効くことと家庭で必ず使う商品だからです。そして日本にはもう1つの理由があります。1973年のオイルショックで最初に店から消えたのもトイレットペーパーでした。その記憶が日本社会に残っているからです。続いておむつ、洗剤、シャンプー、石油を原料とするプラスチック容器が値上がりし、メーカーが出荷を絞り始めます。そして卵、肉、牛乳、パンと続き飼料や輸送コストの上昇が畜産と食品加工の現場を直撃します。棚がすぐに空になるわけではありません。値段が上がって手が届かなくなっていく。それが現代の物不足の形です。お一人様1点までの張り紙はこの時点で日常上ではなくなっていきます。さらに電気料金のさらなる高騰で企業はコスト削減を迫られます。生産調整、希望退職者の募集、工場の閉鎖、雇用への影響が少しずつ顕在化し始めます。
そして1年が経つ頃、日本社会は静かな転換点を迎えます。AIによる推算によれば、この段階でガソリンは1L300円を超えている可能性があります。ここまで来ると燃料コストに耐えられなくなった農家が廃業を選び始め、国産の米や野菜の供給が細り、食料価格はさらに上がります。そしてここから日本の食料問題が表面化し始めます。日本の食料自給率はカロリーベースで約38%。つまり多くの食料は海外からの輸入に頼っています。エネルギー価格の高騰は肥料、飼料、輸送コストを押し上げます。その結果農業生産そのものが縮小し始める可能性があるのです。日本はすぐに飢餓になるわけではありません。しかし特定の食品が手に入りにくくなる食料危機に近い状況が生まれる可能性があります。円安は止まらず輸入品の価格は上がり続け、実質賃金は下がり、家計の余裕は削られていきます。企業の利益は圧迫され、物価は上がり続け、国民は節約へと動きます。その結果、消費は落ち込み、日本経済は静かに冷え込んでいくのです。株式市場も例外ではありません。企業業績の悪化と消費の低迷によって株価は大きく揺れ始めます。
しかしここで日本経済にはもう1つの現象が起きるかもしれません。それが産業の二極化です。円安は輸出企業にとって追い風になります。自動車、機械、素材など海外で売れる企業は利益を伸ばす可能性があります。その一方でエネルギーや原料を輸入に頼る国内産業は急激なコスト上昇に直面します。影響が及ぶのは飲食、小売、物流、農業などの分野です。こうした国内向け産業は利益を出すことがますます難しくなっていきます。つまり日本経済では外で稼ぐ企業が強くなり、国内産業が弱くなる経済の二極化が静かに進んでいきます。その結果、株価が上がる企業がある一方で生活が苦しくなる人々も出てきます。その差は今よりさらに広がっていく可能性があるのです。
しかし本当に深刻なのはここからです。円安は日本の輸出企業に利益をもたらします。日本は外で稼がなければ生きていけない国です。問題は稼いだ企業がずるいということではありません。本当の問題は稼いだ金が現場に届かない日本の仕組みにあるのです。資金は元請け、中間、下請け、再委託、補助金、事務経費と複雑に分かれていきます。企業の利益は圧迫され、物価は上がり続け、国民は節約へと動きます。そして社会を支える下請けや国民の手元には十分なお金が残らない。この利益のピラミッド構造こそが今の日本を内側から細らせているのです。
ここで多くの人が疑問に思うはずです。もしホルムズ海峡が封鎖されても別の国から石油を買うことはできないのか。確かに可能性はあります。例えばアメリカです。アメリカはシェール革命によって世界最大級の産油国になりました。日量で1300万バレル以上の石油を生産しており輸出も行っています。これは中東最大の産油国サウジアラビアの日量約1000万バレルを超える規模で理論上はアメリカから石油を輸入することも可能です。ただアメリカは国内での消費が日量でおよそ2000万バレルと世界最大です。この状況で日量約300万バレルを消費する日本への輸出を全てカバーできるかは疑問です。ではロシアはどうでしょうか。ロシアも日量約900万という世界有数の産油国で日本とも距離が近いですが現在の国際情勢を考えると日本が大量に輸入するのは政治的に難しい状況です。西アフリカやブラジルも候補に上がりますが、ここでさらに問題になるのが距離です。中東から日本までの輸送時間はおよそ20日。しかしアメリカから日本までは太平洋を横断するためおよそ40日ほどかかります。ブラジルからはさらに時間がかかり50日ほどかかります。つまり中東を除くと輸送時間は約2倍以上になります。ここで東南アジアにも産油国であるインドネシアやマレーシアがあるのではないかと思いますが、その生産量は中東やアメリカに比べると日量100万バレル以下と圧倒的に小さく、多くは国内消費に使われています。つまりアジアの国々が日本に大量に輸出できるほどの余裕はありません。
さらにもう1つ大きな問題があります。それは石油の争奪戦です。もしホルムズ海峡が止まれば石油を必要とするのは日本だけではありません。中国、韓国、インド、そして東南アジア各国です。アジアの多くの国が危機の発生と同時に中東以外の石油を探し始めます。高い値段を出せた国が石油を手に入れられ、外貨準備が豊富な国、あるいは政治的な交渉力がある国が有利になります。日本も財政面、政治面で安定しているため石油は届くかもしれません。しかし、だからと言って安く石油を仕入れられるわけではなく、これまでとは全く違う価格で仕入れなければならない可能性があります。そしてその価格は日本経済全体に大きな影響を与えるのです。
では今回のホルムズ海峡閉鎖危機はどこまで広がるのでしょうか。ホルムズ海峡封鎖の行方は戦争の結果によって大きく変わります。現在考えられる未来は大きく3つです。1つ目はアメリカの軍事介入です。アメリカ海軍が海峡の封鎖を力で確保するシナリオです。この場合石油輸送は比較的早く回復する可能性があります。実際アメリカはイランがホルムズ海峡へ機雷設置すれば全力で攻撃すると警告しています。しかしこのシナリオも完全にホルムズ海峡の危機を回避できるとは限りません。そして2つ目は戦争の長期化です。イランとアメリカの衝突が続き、海峡の緊張状態が長く続くケースです。この場合、石油市場は長期間不安定になり、世界はエネルギー危機に向かう可能性があります。これは現在徹底抗戦の構えを見せるイランの出方を見ると現実的シナリオです。完全封鎖は起きなくてもホルムズ海峡が長期で不安定になることは考えられるでしょう。3つ目はイラン国内の政治変化です。国内の経済悪化や権力闘争によって政策が変わり、アメリカとの交渉が進む可能性です。このシナリオが3つの中で危機が比較的早く収束するケースであり、アメリカが望むケースです。すぐにホルムズ海峡封鎖が解除され、非常事態から日常に戻ります。そしてこの3つの中で最も危険なのは2つ目の戦争の長期化です。これが起これば先ほどAIでシミュレーションした1年以上ホルムズ海峡が不安定となり、ガソリン価格が300円を超える事態もゼロではないかもしれません。そしてそれは決してありえない未来ではないのです。
ホルムズ海峡はただの海峡ではありません。それは世界経済の動脈であり、日本のエネルギーの生命線です。今回のシミュレーションで見えてきたのは日本の脆弱性です。日本の海の道にエネルギー、物流、食料が依存しています。備蓄254日という数字は安心ではありません。それは猶予の長さです。だからこそ日本は海の道を自ら守る必要があり、いざとなった場合の選択肢が必要なのです。そして私たちはこの日本の現実を包み隠さず知っておく必要があるのです。